『レギオン』

サッカーのワールドカップの試合が開催された雨の晩、久しぶりのバルト9の10時過ぎから始まる回で見てきました。公開4週目にして、バルト9でも一日二回しか上映していない状態になっていました。シアターに入ると、200席近くある筈の場内で、観客は私とカップル一組の合計3人でした。

タイトルのレギオンは、古代ローマの軍隊形式を指している言葉で、その後、軍隊や部隊を指す言葉として使われているものと思います。今回の映画のケースでは、「神の軍団」と言うことなのでしょう。映画は、神が人間に呆れ果て、過去にノアの洪水で人類をほぼ全滅に追いやったのと同様、再度人類を滅ぼすべく、神の軍団を率いるミカエルとガブリエルに指示を出し、その指示にミカエルが背き、人間の側に着いた結果の戦いを描いたものです。

ミカエルは突如、LAに深夜堕天使として現れ、最初に自分の羽根を切り落とすことから、神への背信に動きます。その後、全く脈絡なく、砂漠の真っただ中にあるダイナーで働き、誰の子かも分からない妊娠をしている、劇中アバズレ扱い連続の若い女性チャーリーのもとに、各種の銃を山ほど持って現れます。チャーリーは、どう見ても信心深いように見えませんし、神の啓示か何かがあったとも何も言っていないので、自分で身に覚えのある性生活の結果、未婚の妊娠に至ったようですから、周囲のアバズレ評価も無根拠ではありません。ところが、ただのマッチョなおっさん風になったミカエルは、その子供が人類を導く救世主となる。人類を滅ぼそうとするガブリエル率いる神の軍団に勝利するには、その子が無事この世に生まれてくるまで、神の軍団の攻撃に持ちこたえる必要があると言いだすのです。

キツネにつままれたような、唐突な展開に観客も劇中の登場人物たちも、全部置き去りにしたまま、マッチョなミカエルは、寡黙に戦闘準備を始めます。

ミカエルが到着する前に、この何にもない砂漠の真っただ中のダイナーのいつもの人々と偶然居合わせてしまった旅人数名のところには、一見上品な老婆が現れ、突如、恐ろしい呪いのような言葉を吐き始め、男性客の首を噛みちぎり、壁から天井へと這い上がり、さらに投げつけられたフライパンの直撃を頭に受けても、全く動じず人々を襲っています。ミカエルは、この状態の人々は天使に憑依された人々であると説明しますが、憑依されるだけで発揮されるとは思えないぐらいの超人的能力を連発で見せつけてくれます。老婆の次には、ホラー映画定番のアイスクリーム売りが夜にダイナーを訪れますが、いきなり、顔と四肢が伸びて、襲撃してきます。さらにこれらの人々から逃げ延びてきたような子供が出てきますが、これも演技で、ダイナーの内部への侵入に成功し、老婆以上の「大活躍」であと一歩で胎児を殺害するに至るところまでの善戦を果たします。

結果的に赤ん坊は生まれ、赤ん坊にはなぜか憑依された人々は手が出せないということで、とうとう業を煮やしてガブリエル本人が降臨します。ガブリエルは棍棒のような武器を持っているのですが、この棍棒のような武器の突端部分は、スイッチを入れるととげを回転させて、殺傷度を高める機能つきです。戦いも基本はブルース・リー系の格闘で、さらに翼で弾丸を防いだり、翼のエッジで敵を切り裂いたりします。恐ろしく、天使っぽくない戦闘形態です。どちらかと言うと、『北斗の拳』の数話でやられてしまう悪党グループの首領のような戦い方です。

結局、神の軍団とは、街を埋め尽くすだけの雲霞のごとき蝿の大群と、手や足が伸びて、牙が生え、天井を這える状態になった異形の人々と言うことのようでした。これであれば、韓国由来の『Dウォーズ』の蛇軍団とか、『地球が静止する日』の金属やコンクリートまですべてを食いつくす虫の群れなどの方が、よほど「神の軍団」にふさわしいような気がします。神も洪水後にネタが不足していたのかもしれません。

見始めて分かったことですが、この映画は、いろいろなホラー系映画やSF系映画へのオマージュのような場面がてんこ盛りに盛り込まれています。一応、パンフレットを買ってみたら、似ている場面が存在する過去のそれなりに有名な作品群を、解説者が執拗に紹介し続けるページが続きます。そういう見方をすれば、一応面白い映画ということもできるようには思います。ホラー系映画のネタ枯れは、先述の神様以上であるという見方もできます。

あまりの唐突な展開に、分からないことは山ほどあるのですが、最大の謎は、神様の意図です。最初は天使たちに人類を滅ぼせと言います。しかし、ミカエル一人はその命令に背いて、「本来、御心は、愛することにあったはずだ」と言い張って、人類を見守り続けるという選択をします。ガブリエルは指示を全うしようとして、ラスト近く、赤ん坊を奪い去ることに一瞬成功するかに見えますが、一度はガブリエルに倒されたミカエルが天使となって甦り、ガブリエルを敗退させるのです。ガブリエルに、天使として蘇ることができた理由を問われて、ミカエルは「御心に忠実であったからだ」と言っています。

では、神は何のためにこの騒動を起こしたのでしょうか。アバズレの赤ん坊が生まれたのを見て、どういう訳か変心したということなのでしょうか。その辺が全く分からず、アメリカの片田舎のダイナーでのドタバタで、全世界の全人類が、なんでそうなったのかも分からないうちに異形の人々に襲われて絶滅に危機に瀕した後に救われたことになっているはずの変な映画でした。ホラー・SFヒット作オマージュ集の映画にあまり関心はないので、DVDは買いません。