『後ろから前から』

渋谷の映画館のレイトショーの、最終上映日に滑り込みで見てきました。日活ロマンポルノが『ロマンポルノ RETURNS』となって復活し、第一弾の『団地妻 昼下がりの情事』に続く、第二弾です。小さな劇場はかなりの混みようでした。女性客も全体の2?3割いたように思いますが、上映期間を通して女性客比率はそれ以上であったのか、レディースシートなる女性客専用の席が配置されていました。

日活ロマンポルノが全盛であった時代、私はまだ小中学生であったりして、(ビデオさえない時代の地方都市では)リアルタイムで日活ロマンポルノを見る機会は全くありませんでした。最近では、『二十世紀少年』にそのような場面がありますが、街角や銭湯の壁に貼られたポスターを見て、アダルトビデオもない時代に、「ピンク映画」と呼ばれた一群の映画の内容を想像していたのでした。日活ロマンポルノはポルノ映画の中でも、(場合によっては、セックスシーンでさえなく)裸さえ出てくれば何でもありのストーリーや設定の、或る種の「実験映画」のシリーズであることに気がついたのは高校生ぐらいになってからであったように思います。

見ることもなかった日活ロマンポルノに未成年の段階でも関心をもったきっかけは、日活ロマンポルノ出身の美保純が当時、竹中直人と同棲していて(同棲と言う言葉自体が当時は甘酸っぱい特殊な響きがありましたが。)、徐々に一般の知名度を上げていたこと。そして、アイドル歌手であった畑中葉子が日活ロマンポルノの女優に転向し、『後ろから前から』に主演すると同時に、同じタイトルの歌まで歌うという、破天荒な企画が、衝撃を世の中に与えたことでした。(それも一般向けの歌番組ぐらいしか歌を歌える番組はないわけですので、ゴールデンタイムに所謂「お茶の間」に向けて流れたことになります)

成人した頃には、ビデオが登場して日活ロマンポルノも含めたポルノ映画は迷走を始め、ロマンXと呼ばれる作品群が出たり、性描写が少ないソフト路線のものも増えたり、日活系の映画館がロッポニカと名称を変えたりしました。札幌にあったロッポニカに行き、『箱の中の女』や『噛む女』などを見た覚えがあります。

そんな経緯で、知っているような知っていないような日活ロマンポルノが復活するとあって、見に行こうかと思い立ったのですが、第一弾の『団地妻 昼下がりの情事』を見逃してしまい、第二弾はぎりぎり最終日に滑り込めました。オリジナルの『後ろから前から』はは畑中葉子主演の暴走族もののハチャメチャストーリーであったように朧気に記憶していますが、リメイク版は女性タクシー運転手の物語になっています。

ストーリーは一応破綻していませんし、途中からロードムービーになって、『幸福の黄色いハンカチ』をきっちりパロってくれます。しかし、閉口したのはギャグの応酬です。確かに日活ロマンポルノは何でもありでしたが、ここまで、ベタにギャグを展開されて、おまけにセックス・シーンは特に息や生唾を飲むような色気一つなく、元アイドルだかの主演女優の全裸が見られるだけに終わっています。

観ていないので分かりませんが、リメイク第一弾の『団地妻 昼下がりの情事』の方が、そのポスターの深刻めいたテイストから、私が期待していた方向の日活ロマンポルノの復活であったのかもしれません。『後ろから前から』は、周囲の観客の会話からは、何度か見に来ていることが窺われたりもしましたので、それなりの評価を得たのかもしれませんが、私には、懐かしの畑中葉子のヒット曲が何度も流れ続けること自体が楽しいだけのハチャメチャ映画でしかありませんでした。勿論、DVDを買うことはありません。