237 徒労の寸前

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経営コラム SOLID AS FAITH 第237号
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ご愛読ありがとうございます。第237話をお届けします。

 10周年特別記念号後編は如何でしたでしょうか。11年目に突入して完成原稿
の在庫も10話。これからも当コラムにご愛読を賜れますようお願い申し上げま
す。

 今年も今号を含めて、僅かに二話の発行となりました。いつもの如く、完成
順にストックを放出しているだけですので、残りの二話も季節感がありません
が、年の瀬さえも越えて、普遍的な経営のあり方に言及しているメルマガとご
理解賜れれば幸甚です。
 
 さて、今回の号は、まだ見込み客にさえなっていない、一度あっただけの千
葉県の会社の専務と再びお会いすることになったので、その前に先方の情報収
集をすることにした際の話です。ソリアズでは珍しい、話全体が一日の時間の
中で完結する展開です。本文の時点の後日、その専務とお会いした際の会話を
読後にご想像戴くと、よりお楽しみ戴けるかと存じます。本文に対するご意見
・ご感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は
5営業日!!
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その237:徒労の寸前

 東京で過ごせる数少ない週末。汗ばむほどの快晴の春の日。千葉県でのアポ
を終えて帰り道に南行徳の駅に降り立った。Tシャツに短パン。サンダル履き
でサングラスをかけ、肩からぶら下げたバッグから、徐に地図を取り出す。も
ともと考えてあったルートを確認し、都営新宿線の一之江駅まで、直線コース
三キロ弱の道を歩き始める。
 
 二ヶ月ほど前、小料理屋で紹介された中小零細企業の専務が居る。頂戴した
名刺を見ていると、「市川さんか。うちの会社の住所と同じだから、忘れない
なぁ」と仰る。数百人を抱える面白いコンセプトの会社。先方もこちらの仕事
の在り方を面白いと感じてくださったようで、「また、是非、お話をしましょ
う」と仰った。数十年の歴史のある会社の世代交代の気配や経営の手詰まり感
が伝わってきたので、「是非、お手伝いさせてもらえると嬉しいですね」と応
えた。
 
 南行徳の駅から25分ほど、休みで施錠されている専務の会社の前に立つ。カ
バンからデジカメを出して、駐車場にある高価そうな乗用車の写真をナンバー
も分かるように撮る。ビルの写真も何枚か撮影する。駐車場の脇に回りこむと、
従業員用の自転車置き場。残された自転車に書かれた住所をメモして、通勤の
範囲を想像する。最寄駅は南行徳。飲み屋、弁当屋、ファミレス、コンビニ。
コミュニティバス路線。ここまで見た材料を色々集めて社員の働き方に思いを
巡らす。幹線道路に出て、人通りのない橋を二つ渡り、一之江駅から新宿に向
かった。
 
 夜、行きつけの飲み屋の暗がりでも、多少の日焼けが分かるようで、カウン
ターの常連客から、ゴルフでも行ったのかと尋ねられる。千葉県で散歩してた
と応えると、皆狐に摘まれたような顔をする。以前会った専務に初アポを取る
予定なので、散歩がてら会社を見てきたと付け加えると、今度は腰を抜かさん
ばかりに皆が驚く。仕事を貰う前から、そんな手間隙掛けるようなことをして
いたら身がもたないだろうと、ホームページをみたら会社の情報とか今は分か
るようになっただろうと、口々に言う。
 
 金を貰わないうちからやることは、皆大抵手を抜こうと考える。机に向かっ
て、常時オンになっているパソコンに向かって、誰もが見聞きできる情報を手
に入れる。私を含めた零細事業者は、そんな風に自社サイトが見られるであろ
うと、好き勝手なことを書きなぐった挙句、更新を止める。もっと面倒臭がり
なら、ホームページの開設さえしない。どう言おうかと考えているうちに、酔
っ払いの面々の話題は次に移っていたので、私は、「効率化が必要ですかねぇ」
などと呟いて笑った。
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次号予告:
 第238話 『能動の基点』 (12月25日発行) 
 今年最後の号は、10周年記念特別号後編の「恒例! 著者によるタイトルベ
スト20 」の中で、唯一の未発表号でランクインした『能動の基点』です。人
を変えるのが無理でも、少なくとも、人の適応を促すぐらいのことを仕事とし
てできるようにと或るきっかけで考えたことをまとめました。ご期待下さい。

(完)