『アンヴィル! ~夢を諦めきれない男たち~』

吉祥寺の街外れの映画館で見てきました。以前、『夢十夜 海賊版』を見に行った映画館です。

話は一旦飛びますが、1984年夏のやたら暑い日。私は埼玉の球場で開かれた、スーパーロック84を見に行っていました。渦巻き模様の刻みが入っていて、そこを押すと渦巻きが盛り上がり、日除けの帽子になるウレタンの板を被っても、クラクラするほどの暑い日です。買って膝の上においておいたでかいサイズのパンフには、汗が、頭の上の搗ち割り氷が解けて袋から溢れ出る水と一緒に染み込んで、ぐちゃぐちゃになり、乾いた後はよれよれで塩の模様が浮き出ました。

出演バンドは、当時私が大好きだったホワイトスネイクとスコーピンオンズ。そして、当時まだヒット一発ぐらいだった、ボン・ジョビが日の丸に自筆で「ボソ・ジョビ」と書いてステージで振り回し、マイケル・シェンカーが自慢のギターを兄貴の前で掻き毟るように弾きまくりといった凄いラインナップでした。

そんな中で、唯一知らないバンドがいました。アンヴィルです。カナダから来たそのバンドは、群を抜いて「メタル」でした。まだ、デス・メタルもスラッシュ・メタルも言葉さえないような時代に、スピード感・グラインド感満点の演奏をギンギンに繰り広げました。それ以降、アンヴィルが気になって、LPを三枚かいました。一二枚ほど買い逃した記憶がありますが、買い逃すとほぼ二度と手に入らず、留学中もテープでアンヴィルの気に入った曲数曲を聞き返していました。好きなロックバンドを挙げるとしたら、一番は古いロゴの時代だけですがホワイトスネイク。次がスコーピオンズ、そして、クイーン。それから四番目にアンヴィルであるのは、当時から数十年間を経た今も覆っていません。
※その後に、VOWWOW、ヘッドピンズ、ディープ・パープル、スージー・クワトロ、ランナウェイズぐらいの感じで続きます。

さて、そのスーパーロック84からいきなり始まる映画です。アンヴィルの結成7年後のことですが、その大活躍をピークに急速にアンヴィルはメジャーな場から遠ざかり、メジャーになるべく、文字通り足掻きながら、今日に至るまで続いていたと言うことが、映画で描かれます。アンヴィルのメンバーの情熱も音楽性も30年を経て全く変化なく、50を過ぎた主要メンバーの二人が、今尚、ヨーロッパツアーの名の下に、ありとあらゆるくだらない理由で報酬さえ満足にもらえない場末のバー巡りで憔悴して行ったりします。

映画のサブタイトルにある「夢を諦めきれない男たち」は、まさにそのもので、彼らのドキュメンタリー映画として、胸を打つ場面は多々あり、映画評が絶賛するのも十分理解できます。しかし、どうも、映画評のように、夢を諦めなかった素晴らしい人々の話として額面通りに受け止められないのです。

映画の冒頭で、アンヴィルの存在を褒め称えるメタリカやアンスラックスなどのビッグバンドのメンバーのコメントが登場します。そして、なぜアンヴィルがビッグにならないのか不思議だと、口々に言うのです。その謎は映画を半分も見た所で簡単に解けます。全くマネジメントやマーケティング戦略がないのです。正直言って、愚劣の域に入っているように見えます。

私は、iPODを買って、早速3枚のアンヴィルのLPを友人にCD化してもらって取り込んだ人間ですので、一応、コアなアンヴィルファンに含まれていると思われます。(ヴォーカルのリップスが84来日時、どこの大人のおもちゃ屋で、ギターにあてるためのヴァイブレーターを買ったかも知っています。)その立場からすると、なぜまともな販売戦略を練り、なぜまともなツアーコーディネートをする人間が彼らの周囲に存在しなかったのかが不思議且つ悔しくてなりません。そして、さらに、なぜこれほどに効果を殆ど生まない努力と溢れんばかりに維持される熱意があって、本人達はそれらをマネージメントの充実や有能な人材の獲得に向けないのかが、腹立たしくさえ感じられます。

スコーピンオンズは、「荒城の月」を演奏し、ボン・ジョビは東京の名を含む曲を二枚目のアルバムに入れていますし、ディープ・パープルでさえ、「オレの彼女は東京出身」と王様が訳した曲をヒットさせています。映画の最後にアンヴィルに対して雲霞の如きファンを提供するのは日本のマーケットでした。そして、彼らの往年のピークの舞台もまた日本だった訳です。なぜ、日本のマーケットで集中的に売るということをもっと早くから考えなかったのかなど、時代に取り残されるには、取り残されるに十分な理由があることをまざまざと見せ付ける、昔からのファンの立場からすると不愉快な映画です。

叩き上げの中小零細製造業の社長が、「いい物を作り続ける努力を惜しまなければ、必ず儲かる」等と言う場面に、仕事上で遭遇することがよくありますが、「顧客から認識される“いいもの”」でない限りそれは殆ど世迷言に近いものでしょう。その無様な例を執拗に見せ付ける映画です。

しかし、それでもこの映画のDVDは、出たら間違いなく買います。映画館で彼らの新譜も買いました。それは彼らの音は、確実に私にとってのワン・オヴ・ザ・ベストで、スコーピオンズ同様、特に動画で見ると際立つものだからです。