226 天国の蛹

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経営コラム SOLID AS FAITH 第226号
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ご愛読ありがとうございます。第226話をお届けします。

 賃貸マンションを仲介してもらって以降、事務所に顔を出しては談笑できる
間柄になりつつある不動産屋さんから、「契約更新の手続きがもう直ぐ」と言
われました。新宿の定宿での生活から、今のマンションに移って、早くも二年
が経過したことに驚いています。新宿南口徒歩圏の居場所は非常に気に入って
います。

 今回の号は、昨年のクリスマスイブ深夜に月末の請求書を発送するために、
そのマンションから新宿西口にある郵便局の夜間窓口に行く途上で見た景色と、
当時読んでいた曽野綾子氏の著作の内容を組み合わせて考えたことをまとめた
ものです。文章化したのもその当時で、年末年始に考える、仕事のこと、商売
のこと、稼ぎのこと、などの集大成として、なかなかまとまりが良い文章にで
きたつもりですが、発表タイミングは大きくずれて翌年半ばとなりました。完
成原稿を常に10話程度蓄積し、単純に順番どおり発行しているだけのことなの
で、このようになってしまいました。ご容赦下さい。本文に対するご意見・ご
感想をお待ちしております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営
業日!!
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その226:天国の蛹

 クリスマスイブの晩、クライアント先での勉強会を夕刻に終えて、足早に新
宿のマンションに戻る。近くのコンビニで買ったパンと飲み物を交互に口に運
びながら、パソコンに向かう。慌しく提案書を作ってメールで送り、請求書や
ら同封する明細などを印刷する。請求書に押印し、慎重に折って次々に封筒に
入れる。封緘前に念のため、宛先毎の中身を確認する。
 
 新宿郵便局の夜間受付に行くだけとなって一息つく。最近読み連ねている曽
野綾子氏の著書三冊目の『貧困の光景』を手に取る。
「途上国の多くの人たちは、日本が地球上のどこにあるかも知らず、日本の現
状など知るすべもないが、国家が必ず食わせてくれると聞いたら、それだけで、
「そこは天国だ!」「私はそこに行きたい!」と叫ぶだろう。日本人の一部の
人は、この国は弱者を切り捨てるひどい国だという。この落差の間に、私は長
い間立ってきたし、恐らく将来も立ち続けることになるに違いない」。本の最
後の文章を読んで嘆息し、身支度を始める。

 煌々と輝く南口のイルミネーションを抜けて、紅い空車の文字を並べるタク
シーの列を横目に新宿西口の郵便局へと進む。途中、ビルのシャッターの脇に
びっしりと、ダンボール紙でできた路上生活者の“家”が並ぶ。箱の原型の方
形もしていない。むしろ丸め作った紙製の蛹のようだ。寝相の問題なのか、蛹
の隙間から腕を出している者も居て、羽化さながらにさえ見える。乾いた寒さ
が刺さる夜。羽化すれば長くもちそうにない。

 ふと昔流行った洋楽のタイトルを呟く。 “Do They Know It’s Christmas?” 
エチオピア飢饉救済目的で数々のアーティストが参加し、世界的にヒットした
曲。施す側はクリスチャンでも、相手の宗教は分からない。盆でもラマダンで
も安息日でも、知って空腹が癒されるものでもないだろう。路上生活者も私も
生きることや喰うことが優先で、クリスマスが来てもさして日常との懸隔がな
い。

「儲かっているんだから、人でも雇ったらどうか」「大きな稼ぎにつなげるな
ら、何か組織化を考えた方がいい」「資金なら出してくれる人を何人か紹介で
きる」。
 独立して8年。翌月の生活ぐらいは心配せずに済むようになってから戴いた
色々な助言を、そのままにしている。造幣局でもないのに、自分のプリンタで
印刷して押印した紙が、人々の手を経て現金に変わる。そのプロセスは、理屈
では理解できても今尚現実味を欠いている。

 マンションに戻り、先の文章の少し前を読み返す。
「荒野が否応なく人間を創り、人間の発見につながるという一方の事実と、潤
沢がしばしば人間性を腐敗させ、崩壊させるという皮肉に、私もまた正直なと
ころ、いまだに上手く適応できないでいる」。深く頷けた。
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☆当コラムはプリントアウトしてお読みいただくと、より一層楽しめます。☆
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まだ、先といえば先なのですが…。
今年10月末日で、当コラム『経営コラム SOLID AS FAITH』は、
とうとう、創刊十周年を迎えます。

何とはなしに、記念号は何を書こうかなぁと、
考え始めてみました。
大抵のやりたい企画は、今までの9回の記念号でやりつくしています。

6月末ぐらいまでは、
ゆっくり企画を考えてみようと思っております。

そこで、
【ソリアズ創刊十周年特別記念号 構成企画大募集】

ということで、
何か企画案などがございましたら、
アイディア・レベルで全く構いませんので、
メールにてご一報戴ければ幸いです。
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普通のブログを読みなれている方々から見ても、
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是非、ご覧下さい。

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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
 合資会社MSIグループ(代表 市川正人)
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次号予告:
 第227話 『面白い仕事』 = 夢中夢(1)= (7月10日発行) 
 あまり知られていないことなのですが、ダンスのレッスンを遥か以前から訳
あって受け続けています。最近お世話になっている高名な振り付けの先生との
お付き合いの中から学んだことを、久々のシリーズでお届けします。全三回の
第一回は『面白い仕事』と題して、自分をワクワクさせる案件の可能性につい
て考えてみます。

(完)