575 適量の艱難 =ホルミシスの魅惑=

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経営コラム SOLID AS FAITH 第575号
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 ご愛読ありがとうございます。第575話をお届けします。

 2024年が始まって10日が過ぎました。今年は1月8日が実質的な仕事始めに
なっている職場もあるかもしれません。漸く年始気分も抜け始めて仕事が本
稼働という方も多いのかもしれません。当コラムは今年も変わらず毎月10日
と25日に発行して参りますので、ご愛読を賜れましたら幸いです。

 狙った訳ではないのですが、書き溜めていた原稿の順が丁度今年の最初の
本号から3回シリーズが始まるようになっていました。シリーズのタイトル
は『ホルミシスの魅惑』です。コラムの本文にも含まれていますが、ホルミ
シスは学問領域の名前で、「冷たさ、熱さ、重力変化、放射線、食事制限、
運動など害や苦痛を起こす刺激を少量から中程度まで与えることで得られる
有益な効果を研究する科学分野」とされています。端的に言うと、苦痛や体
への害があるような事柄のメリットを研究するということです。
 
 以前、『イチローも警鐘を鳴らした…「大人に叱ってもらえない」Z世代
が直面する「やさしさという残酷」』というネット記事がありました。その
本文を一部抜粋すると…

「ある時代までは、自分で自分を厳しく律することができない人であっても、
その人の近くにはきっと「厳しい大人(先輩)」がいて、その人の自堕落さ
や怠け癖をシバいてくれていた。だからこそ、自分を甘やかして易きに流れ
るような者でもどうにか脱落することなく、それなりのクオリティに仕上が
ることができていた。とくに若者は遊びたい盛りなのだから、自分でそうし
た欲望を厳しく律して生活するのは容易ではない。

 だが現在は、甘えや怠けを容赦なく指弾する「厳しい大人」をやってくれ
るような人が若者の周囲にはいなくなってしまった。甲子園の常連で何名も
のプロ選手を輩出する名門野球部でさえ、かつてのような「しごきあげ」が
できなくなっているのだからよほどのことである。
 
 それは若者側の視点からすれば、ひと昔前まで横行していた、時代遅れの
「昭和」な香り漂う暴力的な規律や統制を受けなくて済むことにほかならず、
社会生活や社会活動の快適性が高まっているとはいえる。しかしそれは「自
分で自分を厳しくコントロールできない者は(だれからも指導されたり矯正
されたりすることなく)そのまま放置される」ということのコインの裏表で
ある。」

のように書かれています。本来のホルミシスの学問領域の主旨とは異なるか
もしれませんが、自分にメリットのある「害」や「苦痛」を受容する能力や
精神力が求められる時代になったという風に解釈することができます。

 そのようなテーマを3回に分けて扱ってみることとしました。自分の組織
にいる人々の成長を考える際の大きなヒントになるかと思います。是非、2
月10日まで続く3回のシリーズでご一考ください。ご意見・ご感想をお待ち
しております。頂戴したご感想などへのお返事の目標納期は5営業日!!

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その575:適量の艱難 シリーズ『ホルミシスの魅惑』(1)

 映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の舞台は京都の大学。「ぬい
サー」と通称される「ぬいぐるみサークル」の活動は、部室で縫い包みに向
かって自分の懊悩を縫い包みに話して聞かせること。部員たちはイヤホン着
用で周囲の会話を聞かないのがルール。

 主人公の七森は一年生の男子学生。女子との交際経験もなく高校時代に告
白されても「好きが分からない」とその場から走り去った。ぬいサーに入っ
ているのに唯一縫い包みと話さず、ぼんやり音楽を聴いていたりする女子の
白城に、恋愛を知るために「付き合いたい」と話し受け容れられる。擦れた
女子大生の白城は何となく癒されるからぬいサーに入っていた。もう一つ入
っている部活はイケイケの学生ばかりで楽しいが疲れるという。そして、
時々セクハラもされると、七森に口が滑って吐露してしまう。

 すると、七森が「なぜ自分を傷つける人間のいる部活に入っている。すぐ
に辞めなよ」と珍しくきつく白城を詰る。「けど。やさしい人たちばかりの
所にいると打たれ弱くなっちゃうでしょ」と白城が応えると、七森は激高し
て言う。
「なんで、打たれ弱くちゃだめなの。打つ方が悪いのに。打たれ弱いままじ
ゃだめだから、そんなサークルに入っているの。それ絶対おかしいよ」。

 この作品の多くの登場人物達はこんな価値観で日々を過ごし、簡単に傷つ
いて悲しみ、人間同士傷つけあう世の中はおかしいと簡単に嘆き、簡単に苦
悩して、黙ってそれを受け止めてくれる縫い包みとの場に走る。白城はそん
な「やさしさ」を「踏み込んだ関係性から逃避しているだけ」と理解してい
る。しかし、これが若者の多数派になりつつあるのか、劇中の多数派は傷つ
き懊悩するだけで何も行動しない。似ている言動をするクライアント企業の
社員が何人も思い出せる。似た価値観の弟子も複数いた。

 ホルミシスという概念を知ったのはつい最近。「冷たさ、熱さ、重力変化、
放射線、食事制限、運動など害や苦痛を起こす刺激を少量から中程度まで与
えることで得られる有益な効果を研究する科学分野」らしい。たとえば、ミ
ミズなどを一般的に好まれる20℃より高い35℃などの温度に2時間曝すと、
曝していない個体より25%も長生きし、後に同程度の高温にも耐える能力が
伸びる。けれども2時間ではなく4時間熱に曝すと耐熱性は生まれず、寿命も
4分の1に縮んだといわれる。人間でもファスティングや寒中の乾布摩擦など、
心身の負荷による健康法は幾つも思い当たる。
 
 打たれ続けても野放図に打たれ強くはならないだろう。しかし、打たれ弱
いままでは社会生活が儘ならない。適量の苦痛の範囲をホルミシス・ゾーン
と言うらしい。

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【MSIグループの仕入完了報告(抜粋)】

■『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』 大平信孝 著
■『生まれが9割の世界をどう生きるか …』 安藤寿康 著
■『眼圧リセット …』 清水ろっかん 著
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発行:「企業から人へのコミュニケーションを考える」
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次号予告:
 第576話 『随意の不便益』 シリーズ『ホルミシスの魅惑』
(1月25日発行)
 3回シリーズの第二回目は、京大で研究されているという「不便益」とい
う概念から、ホルミシスを考えてみます。

(完)