『細菌列島』

新宿の初めて行く映画館で見てきました。多分、全国でもこの映画館でしか上映されていないと聞かされて、見に行くこととなりました。パンフレットもチラシもないという点以外でも、変わった映画です。正体不明の病原菌による汚染、細菌用語的には大流行の「パンデミック」がテーマではあるのですが、その病原菌に感染して発病した場合の症状が荒唐無稽の独特さです。

病原菌の潜伏期間は、長くて数日程度。それから熱なのか何かの症状で寝込みうなされるようになり、その後、首をぶるぶると震わせて、ロシア語の外来語を何か一つ叫ぶと、頭部が爆発し、北の国の将軍様の顔になって息絶えるという、変わった病気です。

北の国の将軍様の顔は「お面でもかぶったように」同じなので、死に絶える時に、髪の長さも髪型も顔の輪郭から表情まで、皆同じに統一されることになります。面白いのは、メガネまで一様にかけていることです。メガネをかけていない人間が感染して死に至っても、爆発した頭部はメガネをかけているのです。物理的な都合その他を、一切無視した、なかなか強気な病原菌です。

断末魔の一言は、「ピロシキ」だの「ガガーリン」だの、ロシア語である以外、何らの統一性もありません。(中には「バイカル湖」と言う人も居たような気がしますが、よく考えると、「バイカル湖」は日本語です)北の国の行為と偽るためにロシアが開発した細菌兵器だと言う噂と、映画の最後の方で説明されますが、北の国の言葉ではなく、ロシア語を一言言うというところが、伏線であることに、不覚にも全然気付きませんでした。それぐらい、この映画の設定やら絵づらは強烈です。

主人公は北の国の将軍様の唯一の後継者で、日本に潜伏していて、スーパーマーケットの呼び込みを気ぐるみを着て行なうバイトをしています。須藤謙太朗と言う、お笑い業界には全然詳しくない私は全く知らない芸人さんが演じています。一方、北の国の将軍様を演じるのは竹中直人で、後継者の面倒見役には嶋大輔、表向きフリーターの後継者が居る下宿のオバサンは実は北の国の工作員で石野真子など、結構面白配役で固めてあります。

この未知の病原菌に立ち向かう女医が後継者の交際相手で、子供までできていますが、演じるのは、三輪ひとみです。この人は、名前をよく知らなかったのですが、娘とよく見ていた仮面ライダーカブトで、悪の組織側の幹部の怪人を演じていた人で、やたらクールで怖い人でした。

それが、この作品では、(勿論、隔離された状態の病院では真剣な顔をしていますが…)次代の将軍様と「前立腺体操」なる間の抜けた体操をニコニコしながら、或る時は、歌舞伎町の街並みをクロマキー風の背景にして、フツーに踊っています。このギャップ感が楽しかったです。

映画は『日本以外全部沈没』などに比べて、ギャグが少ないですし、パンデミックのあり様を一応真面目には取り上げているような雰囲気になっていますので、のめりこむ面白さまでは感じられませんでしたが、この設定の妙、そして、それを大真面目に演じる人々には非常に好感が持てました。同じ芸人主演のスラップスティック系で比較するなら、以前見た『ホームレスが中学生』以上の面白さに感じられました。DVDが出たら、買ってしまうと思います。