2022年7月8日金曜日封切の作品です。封切当日に上映第1回目を観て来ました。封切からこれほど早い段階で鑑賞に行くのは非常に例外的です。きちんと確認していませんが、このブログが書かれ始めてから最初のことかもしれません。東京都では4館。23区外では立川で上映しているのみで、残りは、新宿、渋谷、池袋で各1館が上映しており、新宿では1日4回、渋谷では1日2回、池袋では1日5回を初日に上映しています。新宿の上映館は靖国通り沿いの地下に降りる映画館で、2021年09月に『子供はわかってあげない』を鑑賞した際以来の訪館だと思います。先述の封切第一回目の上映は午前11時半からでした。
この映画館にはシアターが一つしかなく、ネットに拠れば席数は218ということになっています。そこに開場時間になってからぐらいの時刻から、次々と観客がチケットカウンターに押し寄せて来ました。私が上映時間30分前にチケットを買った際には51名が既に買っていたと画面下に表示されていましたが、最終的に暗がりで見渡した感じではざっくり70人ぐらいは観客がいたように思えました。かなり偏った属性の観客層です。男性客が全体の7割ぐらいですが、年齢層は非常に高いほうに偏っており、中心値は60代後半ぐらいに見えました。残る女性客はやや若めですが、それでも40代ぐらいから50代ぐらいにかけての分布が中心になっているように見えました。男女カップル客なども僅かにいましたが、基本的に単独客ばかりのようでした。端的に言って、原作者山本直樹のファンなのであろうと考えるのが一番尤度の高い仮説です。
私もその山本直樹の大ファンです。2020年に同じくこの映画館で上映された山本直樹原作の『ファンシー』を観た際に私は以下のように書いています。
「 私がこの超マイナーな作品を観ることにした理由はたった一つしかありません。それは、山本直樹の作品が原作であることです。私は山本直樹のファンです。一番好きな漫画家を選べと言われたら、ほぼ間違いなく山本直樹を挙げます。幾つかの長編作品を除いて、ほとんどの山本直樹の作品は読んでいます。森山塔や塔山森の名義の作品群も一部齧っています。
不条理感、登場人物のやるせなさ、厭世感や虚無感がシンプルな構図で描かれる様子は最高です。意味や意義を見いだせないセックスをこれほどエロく気怠く、しかし美しく描く人はいないと確信しています。私が最初に山本直樹作品に出合ったのは、(既に記憶が定かではありませんが)多分、『はっぱ64』だったように思います。それは多分、中学生ぐらいの時代、バスで2時間かけて行くことが年に1回あるかどうかというぐらいの札幌の町の書店「リーブルなにわ」のコミック売場でふと手に取って惹きこまれたような感じだったと思います。
その後、どういうきっかけだったか全く記憶がありませんが、『あさってDANCE』に目茶目茶に嵌ります。24になって家財道具まで売り払って現金化して留学した際に、唯一手荷物で持っていくことにしたコミックが『あさってDANCE』でした。アニメ・ヒロインで一人最高に好きな人物を挙げろと言われれば、間違いなく綾波レイⅡですが、コミックのヒロインなら今でも間違いなく日比野綾です。
ハズレ作品が圧倒的に多いことを知っていながら、映像化作品もまあまあ観ています。映像化作品で芸術の域に達していて、多くのミニシアターで今尚上映会が催される『眠り姫』は、他の作品の追随を全く許さない至高の完成度です。監督の七里圭さんには2012年に新宿のケイズシネマで行なわれた特集上映『のんきな(七里)圭さん』の場でお会いしたことがあり、数分の立ち話をしましたが、のっけから山本直樹愛で盛り上がった記憶があります。
彼の『夢で逢えたら』をその際に見ましたが、タイトルが山本直樹作品と同一でトリビュートとなっていますが、内容は別の物語です。彼の『のんきな姉さん』はDVDを持って何度も見返す価値があるほどに優れています。
それ以外の実写化作品は、良くてB級Vシネレベルか、チョイエロ深夜テレビドラマレベルの作品ばかりです。私がDVDで持っているものでも、『テレビばかり見てると馬鹿になる』『なんだってんだ 7DAYS』『アダルトビデオができるまで』、『アダルトビデオの作り方』、『ヒポクリストマトリーファズ』、『BLUE』があり、2005年に制作された『あさってDANCE』全4巻も持っています。そのどれも見返す値を見出すことなく今日に至っているDVD群です。
山本直樹の作品でも群を抜いて好きな『あさってDANCE』は1991年にも中嶋朋子主演(さらにその後芸能界から秋元康によって放逐されたと噂を聞いたことのある裕木奈江出演)の作品があり、劇場で観ましたが、比較的中嶋朋子推しの私でさえ、ゲンナリ来て立ち直れないほどの駄作でした。」
山本直樹作品への愛は語れば留まるところを知らないぐらいに好きです。実は『ファンシー』の後にこの作品に先立ち実写映画化された山本直樹作品があります。21年12月に公開された『夕方のおともだち』です。この作品を私は観ていません。引退して普通の生活を送り始めたSMプレイの女王様と彼女の仕置きを極上の癒しとしていた男の彼女の仕置きへの渇望を描いた作品です。セックスを描くことばかりの山本直樹の作品群の中にあって、SMを主題に持ち込んだ比較的少ない作品のうちの一つで、且つ名作であるのは間違いありません。名作で有り過ぎて、正体を暴かれ、迫られ続けた女王様の今までの集大成のようなSMプレイの描写が、SMプレイの趣味を持たない私にはあまりに生々しく、特に包皮を剥いた亀頭にカミソリの刃を立てるコマなどはトラウマ級で辛い作品でした。映画でそのようなプレイまでがきちんと再現されているのかどうか確認していませんが、原作の辛さ故に結果的に実写映画もパスしました。
そんな私ですから、『ビリーバーズ』は逃す訳にはいきません。北海道どころか東北以北で1館も上映されていない状況で、東京でも繁忙の日々が続いている時期だったので、先延ばしすることなく、躊躇なく、都合がギリギリ合った封切日の第一回目の上映に足を運ぶことにしました。
この『ビリーバーズ』という作品は大判のコミックで2冊しかない物語です。或る無人島で暮らす宗教的な団体・ニコニコ人生センターに所属する2人の男(議長とオペレーター)と1人の女(副議長)がいます。彼らは雑魚寝する狭い部屋さえ同じ共同生活を送りつつ、瞑想や見た夢の報告会やテレパシーの実験などを行なっています。教団の本部からメールで送られてくる指令を実行しながら、途切れがちに届く僅かな食料でギリギリの生活を送り、俗世の汚れを浄化し、安住の地を目指すための修行を行なっているのでした。
教団本部からの指令は深夜に船で来る運搬係の集団に対して、倉庫から荷を出しておくことですが、この荷物の中身が拳銃など違法な物品であるようで、彼らはそれを知ろうともせず、知ってしまっても知らなかったことにしつつ修行を続けています。この違法物品はおそらくカルト教団の“実行部隊”が用いる武器なのであろうと思われます。(現実に終盤で登場する集団自殺の場面では機関銃的な銃器を持つ教団員が何人も登場しています。)
鑑賞に行った日は安倍元首相が明後日の参院選の遊説先の奈良で銃殺された当日です。別にそのように狙った訳では全くありませんが、異様な新興宗教団体ニコニコ人生センターの活動を描くこの映画のエンディングでは、教祖が至近距離から射殺されてしまいます。原作者山本直樹がその問題の宗教団体の教祖の役でカメオ出演しています。
原作が山本直樹ですから、コミックにおいて前述のような気怠いセックスが延々と続きます。特に副議長とオペレーターがセックスを重ねる関係になると、議長は歪んだ嫉妬を抱き始めます。議長は当初、自分の性欲の害毒を出すためと、自分を長い杭に縛り付けて、全裸になった副議長にフェラチオをさせ、射精の後に自身の男性器を食い千切るように迫っています。
その後、それでも議長の目を盗んでセックスを重ねようとする副議長とオペレーターを許せず、議長はオペレーターの下半身を土に埋めて反省を迫ります。そして、自身の宗教的且つ組織的権力を利用して副議長に肉体関係を迫るのでした。副議長は当初執拗に要求されていたフェラチオを行なうふりをしてとうとう議長の男性器を食い千切ります。そして島から議長を排除することに成功するのでした。二人きりになった副議長とオペレーターは日々を全裸で過ごし、寝て起きて、海で取れた貝などを食べ、それ以外の時間は、漫然とセックスの快感に耽る毎日を過ごすのです。
パンフレットを見るとこのオペレーターと副議長を磯村ナンチャラという男優と北村優衣という女優が演じています。よくテレビドラマや最近の映画などにあるような暗がりの中で折り重なる裸の上半身…、そして睦言と口づけ…と言ったぼんやりした展開ではありません。原作のコミックの描写の構図を極力実写に採り入れたと言わんばかりの映像です。それは、ピーカンの浜辺のコンクリの上の対面座位であったり、同じくピーカンの海の浅瀬での対面立位であったり、窓を開け放っても尚暑苦しいプレハブのような彼らの“基地”のような部屋での対面騎乗位であったり、両者が全裸の姿をギリギリ陰毛が映り込まない配慮だけされた程度の構図で撮り続けているのです。
私はこの二人をある程度よく知っています。男優の方は私が月に何度かの日曜日の午前中に見る『ミライ☆モンスター』のコメンテーターのような役割を勤めていて、その声や口調まできちんと認識しているぐらいです。おまけに先日『ホリック xxxHOLiC』を観てからパンフを観たら、一番の衝撃はエロい女郎蜘蛛が吉岡里帆だった事実ですが、次に驚かされたのは、女郎蜘蛛の手下のアカグモがこの磯村ナンチャラであったことです。全く分かりませんでした。芸達者な役者なのだなという印象しか湧きませんでしたが、まさか、Vシネでもなかなか見ないぐらいのセックスを全裸で延々と披露する役を引き受けるような役者とは思いませんでした。
女優の方は『ミライ☆モンスター』の直前に同チャンネルで観ている『ワイドナショー』のワイドナ高校生だった北村優衣です。高校生ではなくなった後は、ウィキによると固くはないもののかなり真面目な内容に偏った番組の『日立 世界・ふしぎ発見!』の解答者やミステリーハンターとして活躍していると書かれています。グラビアではかなり際どい写真を公開しているとネットで噂になったこともあるようで、ネット記事の一つにはグラビア誌関係者の言葉として…
「今回アップしたグラビア写真の中には、肉付きのいいバストをギュッと腕で寄せた水着姿がありました。よく見ると生地が薄いためか、中がうっすらと透けており、胸の輪っかのようなものが写っているのです。ファンは大喜びで『胸の先端部分が透けてる!?』『最高の美バスト!大好きです』『思わず凝視してしまう』などと興奮の渦が…」
と書かれていますが、本作では乳輪が透けて見える…と言ったどころではありません。鼠径部こそ海面下に辛うじて収まっている状態で全裸で浅瀬に立っているシーンなどもふんだんにあります。単なる裸身をこれでもかと晒しただけではありません。原作にかなり忠実な物語展開なので、島に上陸してきたヤカラ数人に襲われ、胸を揉み抱かれ強姦されそうになりますが、後にその中で「濡れた」とオペレーターに白状しています。海に着衣のまま潜水して貝などを取り、ブラナシの濡れTシャツで動き回ります。さらに議長に迫られて何度もフェラチオを連発しますし、その後、全裸水泳を披露した後、磯村ナンチャラとの隠れている所がかなり少ない濡れ場の連続です。その上、議長のペニスを食い千切り、その後も先述の通り、全裸で生活しつつセックスを重ねます。
R15+とは言え、本当に所謂セクシー女優と呼ばれるAV女優達に演じさせないで、こんな普通の番組に普通に出ている女優がやって問題のない役柄なのだろうかと真剣に考えさせられてしまいます。考えてみると、昔の日本映画で所謂「娯楽大作」や「娯楽作品」と言われる映画には濡れ場が混じり込んでいました。あの薬師丸ひろ子の大ヒットデビュー作である『セーラー服と機関銃』にさえ、セックス・シーンが短いながらきちんと織り込まれているのです。
パンフに拠れば山本直樹の大ファンであると公言している本作の監督は(多くの日本の監督に共通していますが)、ピンク映画の制作に助監督などとしてかかわってきた人物ですから、やると決めれば(/決まれば)これほどの尺と露出度の濡れ場も作り込めるということなのかもしれません。そうであっても、なかなか見ない踏み込み度合いだと思えてなりません。たとえば、色情症の女性を描いた『ニンフォマニアック』でさえこれほど露骨に全裸の男女の交合する姿を晒していないように思えます。そう感じられる私は近年の表現に過剰な自粛をしているテレビや映画の映像に慣らされ過ぎているのかもしれません。
磯村ナンチャラ演じる主人公の男は、嘗て母親がニコニコ人生センターに入信し、それを説得して脱会させようとしていました。そして、教団の教義の害悪が信者を犯罪に走らせるに至って、社会問題化して行った頃に、今度はこの主人公の方が入信して、母親は脱会を果たしていたようでした。そして、今度は(夢か現実か分からないような描写になっていますが)母親の方が主人公に脱会するように懇願しています。母子共に脱会を薦められた際に、「穢れた俗世に犯されてしまった」と相手を憐れみ蔑んでいます。この原作が登場した頃はまだ信者か非信者かの二元論でしたが、人々がフェイクニュースに振り回される現代。このような構図はさらに複雑化しているように感じられます。
その意味で、劇中の人々の信仰の様子は、或る意味、世の中総ての人が大なり小なり当てはまることとも取れますし、現在の世の中のあり方に比べて妙にシンプルで微笑ましくさえあるようにも見えます。
前述の通り、この映画の性描写は目を見張るものがあります。イマドキの映画が失っているものを持っているように思えました。けれども、山本直樹の作品群の持つけだるさや無気力さの中で男女が行なうセックスの空気感がどうも実写の中にないように思えてならないのです。それは、真面目なテレビの世界で生きる若手男優・若手女優の表現域には存在しない事象なのかもしれません。その味気無さはあるものの、私が熱愛する山本直樹作品群の中の佳作をかなり忠実に実写化した価値は間違いなく認めなくてはなりません。DVDは勿論買いです。