9月半ばの月曜日の晩、封切からまだ3日目に観に行ってきました。全国でもたった1館、それも1日に1回しか上映していません。おまけにどうも1週間の上映しかしないようで、合計7回の上映しかないことになります。池袋の西口の古いビルの古い映画館の午後6時半からの回に足を運びました。
この映画は、『それはまるで人間のように』という映画の上映スケジュールをチェックしていて、その存在を知りました。同じ上映館だったのです。都合が良いということもまずありましたが、この映画を観に行くことにした最大の理由は、単純にそれがAV業界とアイドル業界の境目ぐらいの場所で起きる物語を描いているからです。最近名前が変わった元MovieWalkerによると…
「18歳の沖縄出身グラビアタレント、南風原海空(橋本梨菜)。長身巨乳で空手が得意な海空は、歌手になることを夢見ているが、露出しまくりの着エロアイドルとして不本意ながらそれなりの人気を保っていた。そんなある日、突然事務所からAV出演を命じられる海空。その内容は、黒帯アイドルが100人組手をして、負けたら輪姦、勝てば1曲歌わせてもらえるというとんでもない企画であった……。」
と物語が紹介されています。AV女優の物語は過去にも、名作の『最低。』に始まって、『名前のない女たち』、『nude』、『エターナル・マリア』などがあり、他にもAV撮影が絡む物語なら『東京闇虫パンドラ』も観ていますし、AV監督ドキュメンタリーの最高峰ともいうべき『YOYOCHU SEXと代々木忠の世界』や、AV監督ドキュメンタリーの愚作に見える『M/村西とおる狂熱の日々 完全版』も観ました。また、AV男優にスポットを当てたレアな『セックスの向こう側 AV男優という生き方』という作品も観たことがあります。
私がAV業界を描いた映画をまあまあ観ることにしているのは、単にその描かれ方に関心があるからです。私はAV制作会社のクライアント企業からお仕事を戴いていたことがあるので、その内実をそれなりに知っています。そして、その内実を知ると、この業界に対する偏見や全くの誤解があまりに世の中に横行していることに気づかされます。別に訳知り顔で評論したいということでもなく、単に妥当に現実を反映した作品があればよいものという期待が湧くから観に行くというのが、これらAV業界系の映画を観に行く最大の理由だと思っています。
映画紹介に読み取れたAV業界的な設定にはかなり無理があります。元々あまり目の出ない状態でも一応水着の撮影などの仕事もあるにはあるぐらいのアイドルがAVデビューするなら、せめてキカタン級、もしくは単体級ではないかと思われます。いきなり輪姦モノでは実質的に企画女優という扱いですから、無名のタイトル持ちの空手達人娘を連れてきた方が自然に思われます。それほど売れない状態として見切られたと言うほど主人公の南風原海空は売れていないようには見えません。
その意味で、映画紹介の文章からもかなり荒唐無稽感が漂っていて、観に行くべきか否か少々迷いはありました。それでも、それを振り切る最後のきっかけは、この紹介文に描かれるAV作品の設定です。
セックスをベースにした斬新な企画を連発するという観点では、高橋がなり率いるSODの全盛期の作品群が最高だと思っています。有名なマジックミラー号モノやアクメ自転車シリーズなど、数々の伝説的な有名シリーズがありますが、その一つが『女格闘家VSレイプ魔』シリーズでした。レンタルビデオ店が全盛だった時代、このシリーズはどこのレンタル店にも必ず存在していたように思います。対戦相手が100人などという荒唐無稽な数ではありませんでしたし、かなり高段位者でさえ、相手の男優の数人目には必ず疲れで動きは鈍くなり、隙を衝かれ負けてしまうのが常でしたが、基本的に、この伝説のシリーズとこの『はぐれアイドル 地獄変』のAV作品の設定は酷似しています。その撮影場面をドラマ化したのであれば一見の価値はあるかと、思い立ったのが最終的な動機でした。
場内に入ると、30人程度の観客がおり、20~30代の男女が半数を占めていて、残りは概ね50代を中心値とした年齢の単独男性客という感じの構成でした。上映前のロビーでの会話からも関係者が多数混じっていることが想像されましたが、上映後のロビーはさながら記念撮影会の様相となっていて、そこには主演女優も同じプロダクションのタレント陣も、さらにマネージャー、社長、そして出演していた男優なども存在していました。特にトーク・ショウが企画されていた訳でもなく、ロビーで上映終了を待っていた様子でもなかったので、彼らはほぼ全員観客でもあったことが分かります。
多分、全観客の7割以上は制作関係者だったのではないかと思われます。DVD化した際の劇場公開作品としての箔付けかもしれませんが、たった7回上映されるだけで日の目を見なくなる作品という風に考えると、自主制作プロジェクトと殆ど変わりがないようにも思えます。
観てみると、私が期待していた『女格闘家VSレイプ魔』へのオマージュ的な部分は、まあまあ見応えがありました。フィクション感はバリバリですが、自分の中で風化しつつある『女格闘家VSレイプ魔』の記憶を手繰っても、まあまあこんな感じだったよなと思える場面が幾つか見つかります。
ただ、当然ながら、主人公南風原海空(はえばる・みそら)を演じる橋本梨菜とかいう名のグラビア・アイドルはAV女優ではありませんし、劇中処女という設定の主人公は結局プライベートでもセックスを経験しないままに終わりますから、『女格闘家VSレイプ魔』の企画は成立せず、南風原海空は自分の得意な(と思っているだけで、本当は聞くに堪えないほどの音痴な状態という設定ですが)歌唱を熱戦の後に披露するという、おかしな企画モノAVが発売されることになります。
南風原海空が歌っている場面は音声が切られて、エンドロールが流れます。その間劇中の本人以外の人々は、まるで、『ドラえもん』のジャイアンのリサイタルや『そらおと』のニンフの「ボエー」声を聞かされているように、バタバタとその場に倒れこんでいくという作中唯一のギャグタッチの演出が為されています。スカパーの催眠特番の撮影に関わった際に、番組の最後に皆催眠がかかったふりをしてバタバタと倒れるようにと指示されたことがあり、助手役の私もばったりスタジオで倒れ込むことになりました。なぜか昔のテレビのギャグでは結構定番だった「全員ばったり」は、私には何が面白いのかよく分からず、むしろ何かあざとさが際立つように感じられました。
場内の暗闇で、音声が切られているのに歌い続ける南風原海空の姿を灯りにして時計を見ると、全然終映時間より前でした。不思議に思っていると、中間で何らかのオープニングが入る訳でもなく、何事もなかったように、後半の物語が始まりました。それは、おかしな企画モノAV作品がまあまあヒットした、AV女優ともアイドルともつかない微妙な立ち位置になった南風原海空のその後の芸能活動と一応の「活躍」の物語です。
それは卯水咲流演じる先輩モデルが、仕事を餌にして騙されて、高須医師を連想させるような金満美容整形外科医に暴力を散々振るわれた後にレイプされるという事件が起き、その仕返しに主人公が持ち前の空手を活かして打って出る話です。映画紹介の文章のどこにも載っていず、その意味では、とってつけたようなパーツですが、前半を超える面白さや展開の妙がある訳でもなく、意趣返しの決断をするまでの過程や、いざ決めた後の特訓の場面が妙に長いなど、何かダラダラした感じが否めません。
卯水咲流は、顔がいまいちタイプではないのですが、その怪優ぶりが私はかなり気に入っています。数々のAVにも出演していますが、元々クラリオンガールだったキャリアに、アニメオタクとしても有名で、エッジが立った人物であるのは間違いありません。私は『乳酸菌飲料販売員の女』が結構好きです。いつもランキングを見直している邦画50選には入れていませんが、仮にさらに邦画200選を作ったなら間違いなくランクインすると思います。その彼女の暴力医師に蹂躙される姿は、AV作品でも被虐的立ち位置の役が目立つ彼女の腕の見せ所といった感じなのかもしれませんが、私はむしろ加虐系の彼女の方がルックスに合っているように思えるので、特段、見て良かったと思えるシーンでもありませんでした。
主人公を演じる橋本梨菜は、元MovieWalkerのニュース記事によると…、
「“日本一黒いグラビアアイドル”、“なにわのブラックダイヤモンド”などの異名を持ち、日焼けした健康的なスタイルで人気を博している橋本梨菜。」
とあるので、知る人の間では有名なのかもしれませんが、私はまったく知りませんでした。役も役なので、致し方ないかと思いますが、特に劇中でも可愛いとも愛苦しいとも思えませんでした。かなり出来の良い部類の自主製作映画というような印象を持った所で、リアルにロビーにいる主人公がワイワイ、キャッキャと身内ウケ的に写真を撮り合うのを見るとかなり興ざめで、余計のこと、DVDは仮に発売されても要らないなと思えました。
追記:
この映画を知るとともに、(パンフレットもない作品ですが)ネット情報で原作がコミックで今も尚連載が続いているということを知りました。確かに映画の主人公はコミックの主人公にイメージが近く、配役の妙だけは、後日実感しました。