『ルパン三世 THE FIRST』

 今年最初の三連休の中日の日曜日に、ピカデリーの18時25分の回を観てきました。12月6日の封切から既に1ヶ月以上が経過しています。新宿ではまだ3館が上映していますが、ピカデリーも含めてどこも既に1日1回の上映になってしまっています。おまけに、歌舞伎町のゴジラ頭の映画館では数日以内の終映が決まっているようです。

 157席あるシアターの7割以上は埋まっている感じでした。三連休の人出とは言え、この動員状況を見ると、終映が迫っているようには感じられません。男女半々ぐらいの構成で、年齢は圧倒的に若い方に偏っており、20代から30代ぐらいまでで半分以上は間違いなく締める状態でした。

 私がこの映画を選んだ動機はやはり峰不二子です。ここ最近の『LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘』に至る『LUPIN THE IIIRD』シリーズの大人テイストのある新作シリーズの面白さが植えつけられているからと言うことも間違いなくあり、その最終作の主人公である峰不二子の姿は、PCの壁紙にもするぐらいに気に入っています。

 そして、もう一つの動機も、「やはり」、初の3Dバージョンのルパン三世のキャラたちを見てみたいということでした。観てみると、キャラ達の目が丸く大きくなりがちで、顔がちょっとアナ雪風になっています。ヒロインのルティシアは良いものの、峰不二子は結構苦しいように思います。クリクリ御目目にならなかった次元と五右衛門はかなり行けている感じに収まっています。また、ルパン三世のジャケットが革のような質感を持っているのも少々驚きでしたが合っています。トータルで見るとかなりしっくりくる感じで新鮮です。

 オープニングのシーンから、3Dになっても尚、きちんと、ファースト・ルパンTVシリーズへのオマージュなどがガンガンに出てきて嬉しいです。しかし、物語の展開は途中から『カリオストロの城』的になります。ファースト・ルパンのハード・ボイルド系なテイストが好きな私には、少々辛いものがあるのも否めません。たとえば、『峰不二子という女』と言うシリーズでは、銭形は拘留中の峰不二子とセックスに明け暮れたりしています。そんな荒くれさもアダルトさも完全に灰汁抜きされたルパン・シリーズなので、寂しい気もします。ルパンをフィーチャーした『トイ・ストーリー』や『シュガー・ラッシュ』を見ているような気分なのです。

 物語は、重力波が発見され、量子コンピュータがあらゆる暗号を瞬時に解読する可能性を開きつつある現代だからこそうまく練られたような、古代人の重力制御装置を巡る秘密を書き留めたノートを難攻不落と言えるほどの物理的機構と暗号によって保護しているケースが中心に置かれています。それらが非常にうまく表現されているのはそれに関する科学的見識が、以前以上に一般に普及しているからではないかと思えます。しかし、一方で、海外展開時に問題を生じさせないようにしたためか、またもや、世界的な悪者はナチスと言う単純設定はかなり残念ではありました。

(私は、別にナチスを崇拝している訳でも理想化している訳でもありませんが、ありとあらゆる歴史系陰謀的な物語で悪の組織と言えばナチスしか登場しない単純さを嫌悪します。大虐殺は確かに歴史上類例の少ない非道さですが、ナチスの経済政策や社会施策にはケインズさえ高く評価するものになっていますし、そのナチスに当時のIBMなどが積極的に協力していたことはかなり広く知られた事実です。数千・数万単位の他民族の虐殺なら、ドイツ以外の欧米各国も植民地支配のプロセス上で幾らでもやっていたことです。)

 もう一つ残念なのは峰不二子の活躍が期待より大幅に少なかったことです。しかし、『カリオストロの城』同様のルパンに恋心を抱く御嬢さんキャラ、レティシアの設定と物語が秀逸です。レティシアは当初ルパンを「泥棒」と言う悪事を働く許しがたい人間と見做すスタンスでしたが、行動を共にするうちにルパンにどんどん惹かれていく純真娘です。ツンデレと言うか、心理学的「ゲイン・ロス効果」と言うか、クリシェな展開ではありますが、見ていて引き込まれます。おまけに今回は古代言語多数に堪能で古代の探求に情熱を燃やす考古学の天才少女です。『カリオストロの城』のクラリスを超えたキャラになって、作品としての面白さも、少なくとも、私にとっては圧倒的にこちらに軍配が上がります。

 銭形が「(ルパンが盗んだのは)あなたの心です」の名台詞を吐かないものの、その構図はそのまんま活かされています。間違いなく名作だと思います。終わった後にシアターを出ていく観客達が口々に「面白かった」と言っているのがその証左でしょう。93分の短い尺ですが、ダラダラした場面もなく、あっという間に終わったように感じられるほどの全編を通した疾走感があります。ただ、それ以上の言葉があまり聞かれなかったところが、やはり、前述した「灰汁抜き感」故のことかもしれません。

 広瀬すずのヒロインのアテレコがキャラのイメージにイマイチ合っていないという意見をネットでも読んでいましたが、シアターからの下りエスカレータでも複数回耳にしました。私はあまり広瀬すずが好きな方ではありませんが、その最大の理由は何か常に顔が浮腫んでいるように見えることです。しかし、今回は顔が出る訳ではないので全く問題がありませんでした。

 本来のルパンよりもそれなりに善人キャラなので、イマイチ残念感はあるものの、少なくとも初の3Dキャラの画像には新鮮味があり、ジブリ臭が充満していてルパン作品には思えない『カリオストロの城』よりは、十二分に好感が持てる作品です。DVDは買いです。

追記:タイトルの三世は、英語なら“the third”です。その後に“THE FIRST”が来ることには少々違和感が湧きます。

追記2:鑑賞時には札幌でもピカデリーでも入手できなかった『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』のパンフが売られていたので、本作のパンフと共に購入することができました。『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』の観客動員状態はとんでもなく目覚ましく、『王様のブランチ』の映画ランキングにも長く存在しています。その状況を受けてパンフも増刷されたということなのでしょう。