『イマジネーションゲーム』

 7月下旬の封切からほぼ3週間経った金曜日の夜6時50分の回を、池袋駅の南口からすぐのミニシアターで観て来ました。この映画館は、私が普段足を運ぶことが少ない池袋にあるため、そこでしか観られない作品がある場合に行くだけです。以前『ありえなさ過ぎる女 ~被告人よしえ~』を観に来た際にも、それ以前にその映画館でしか上映していず観逃した『女々演』のブラウザーのタブから偶然関東でたった2館しかやっていない作品と分かったので観に行くことにした結果でした。今回も例外ではありません。この映画の存在にはそれなりに早くから映画サイトの数か月先の封切予定表で見て気づいていて、時期になって、「それではそろそろ観に行こうか」とネットでチェックしてみたら、上映館は全国でたった一館しかありませんでした。

 1日の上映回数も少なく、日程が合わない中で徒に時間が過ぎ、漸く行けるようになったのは、この映画館で1日1回の上映になった状態の終映日当日でした。つまり、全国で1日1回しかやっていない作品の最後の上映回と言うことです。DVD化も怪しいようなこの作品の最後の上映を観たいと考えた人が多かったのか、シアターに入ると20人以上は観客が居て、ミニシアターの興行を考えると少々終わらせるにはもったいないぐらいの人数に思えました。男女半々ぐらいの比率で、女性は40代ぐらい、男性は私も含めた50代ぐらいの年齢層が多かったように思います。男性の方は概して肥満体系の大柄の人物が多いのは、初期AKBファンのその後の姿なのかも考え至りました。

 私がこの映画を観に行ってみたいと思った理由は、自分があまり活用してもいなければ関心もあまり湧かないSNSの世界、それも、どちらかと言うと、その世界の歪んだ負の側面をモチーフにしているからと言うことが大きいと思います。主演の久本雅美はこれが映画初主演だったようですし、板野友美は主演二度目と言うことで、この或る意味異色の組み合わせは、一応注目に値しますが、特段、私にとって見逃したくないと思えるほどの魅力ではありません。異色の組み合わせとは言ったものの、考え直してみると、コメディエンヌとアイドルの組み合わせと言うことで言うと、この映画館で前回観た『ありえなさ過ぎる女 ~被告人よしえ~』と同じ構図です。ただ、『ありえなさ過ぎる女 ~被告人よしえ~』の時にはその両方を私は全く知りませんでしたが、今回は両方ともそれなりに知っているという違いでしかありません。

 それなりに知っているのも、本当に「それなり」の程度です。お笑い番組が特段好きでもなく、所謂タレントが集まってただ雑談する番組にも全然関心が湧かない私は、特に久本雅美の出演番組を見る機会がありません。その唯一の例外は、私が畏敬の念を抱く芸人タモリが延々とやってのけた『笑っていいとも』に、彼女も出演していたことです。この番組には、私が他で見ることが殆どない大物芸人がレギュラーとして曜日変わりで出演していましたが、久本雅美の存在感はそれらの大物芸人に引けを取っていないように思えていました。その結果、少なくとも、彼女の芸風なり顔なり声なり名前なりは覚えることができています。

 一方の板野友美の方も「それなり」です。モーニング娘。を始めとする幾つかのハロプロ系のアイドルは、当時幼稚園児だった娘とよく音楽番組で見ていたりしていた関係で馴染みがあり、今もiPODにモーニング娘。のベストも、ゴマキのベストも、松浦あやのベストも、Wのシングルも入っていますし、PVのクリップ動画だけなら、メロン記念日もカントリー娘も入っています。それに対してAKB系は、あまりに普通過ぎて見た目にも興味が持てず、曲も特にウケるものには思えずで、全く守備範囲外でした。勿論、各種メディアでAKBだのHKTだの飛行場名の略号のようなグループの色々な情報が目や耳に入って来ていましたが、ほぼスルーでした。その状況の中で、唯一の幽かな例外は板野友美でした。唯一の例外的チャパツもあってか、どうも他の子達から完全に浮き上がって見える、リアルなその辺に居そうなスレた女子高生として、或る意味ワル目立ちしていたために、記憶に残っていて、この子だけ、名前と顔が一致していたと言う程度です。

 その後、私が過去に唯一持ったスマホはイーモバイルのもので、全く私の言うことを間違えない恐ろしい精度の音声認識には驚愕しましたが、バッテリーの持ちが悪く、重く、おまけに数々の仕事用のファイルを入れたらすぐにメモリーがいっぱいになって、使い勝手の悪さがあまりに目に余ったので、それ以降、スマホを持たない生活が続いています。そのスマホを契約した際に、パンフからチラシから、それを入れたクリアファイルにまで板野友美が載っていました。

 さらに、飛行場で見るサマンサ・タバサのポスターにもあちこちに彼女が居た時代があります。海外のスーパーモデルの一団の中にサマンサ・タバサのプロモーション・イベントで並ばされ、ネット上では「板野友美が公開処刑を受けた」と大騒ぎになったのを私も知るに至りましたが、米国留学以前からその手のアメリカ人の女性が目指す一つのライフ・カテゴリーとしてのモデル系女性は、私には、できそこないのリカちゃん人形かお台場の蝋人形館に居そうな人形のようにしか見えないので、板野友美の自然な可愛らしさの方が際立って見えたように思えました。ネット上では、整形だの劣化だの話になると、結構定番で登場しているようですが、他にもそういう芸能人はたくさんいることでしょうから、何だということでもないようにしか思えません。

 このAKBの中の板野友美の特別感は、彼女のウィキの中にも秋元康のコメントとして「唯一板野だけに、派手な茶髪を許しているが、それは本当にイマドキの女の子の代表だと思っているから」と書かれている通りだと思います。それが私の記憶にも辛うじて残ったというだけのことで、特にファンでもなければ何でもありません。

 この作品の紹介は、MovieWalker によると…、

「大手ゼネコンに勤務する独身の超エリートキャリアウーマン早見真紀子(久本雅美)は、仕事一筋の毎日だが、実は彼女には人に言えない秘密があった。それはあるサイトでカリスマ的な人気を誇る“女神”なのだ。そんな中、ある事情から公園で野宿しようとしている主婦・池内葵(板野友美)と出会う。葵は、夫の留守中にこっそりと復讐する『夫への復讐サイト』のカリスマブロガーだった……」。

となっています。久本雅美の方は、渋谷や池袋の公園や雑踏の中にパンティを、動画投稿の場合は(顔出しナシで)その場で脱いで置いて来て、その情報をアップすると、サイトの暇なファンが殺到してそれを探す状態になっています。

 やっていることの社会的認知がだいぶ異なりますが、見ようによっては“東電OL”のような感じにも見えます。そして、そう見えるが故に、秘密の露見のフラグは劇中のかなり早い段階から立っていて、中盤ちょっと過ぎで現実化します。何をどう思ったか、深夜の公園の男子トイレの中に動画中継しながらパンティを脱ぎおいて来て、出てこようとしたら、警官に職質をされ、そのまま交番に連れられて行ってしまうのです。そこにファンが集結し、“真夜中の女神様”は“パンティを置いて回るババア”だったと露見して、会社にも居場所をなくしてしまいます。

 久本雅美のキャラは会社では、この手のドラマによく出てくる定番の鬼上司で不必要に意味のない叱咤を部下に対して行なうババア上司です。それでも、がむしゃらに仕事に取り組んではいるので、大口の建築案件(むしろ、地域開発レベルの規模です)の受注にまで至っています。しかし、プライベートでは可愛がってくれるのは父ばかりで、その父が数年前に亡くなって、誰からも愛されない虚しさに苛まれていたという、やたらにクリシェな心理状況だということのようでした。

 板野友美の方は映画のかなり早い段階で、夫に“復讐行動”がバレて家を追い出され、紹介文にもある“公園で野宿”状態になってしまっています。彼女が夫の外出中に夫の歯ブラシで便器の掃除をしていたり、雑巾のしぼり汁をカップに入れたり、漂白剤だかをクリームシチューに混入したりなどしているのが、家の中に私立探偵が設置した隠しカメラで暴かれてしまったからです。ただ、板野友美の方は、カリスマブロガーというのはちょっと違い、復讐サイトでの“ジャンヌ・ダルク”というハンドルネームの常連投稿者と言う立場でしかありません。そして、実行するごとにそれをアップしていて露見したのです。彼女がそのような行動に走ったのは、端的に言うと愛のない結婚をしてしまったからと言うことのようです。

 母子家庭で母はスナックのママで海千山千と言う感じの家庭に育ち、中卒で仕事もロクになく、付き合う男もロクでもない男ばかりだったのに、学歴やら何やらを嘘で固めて結婚できた唯一の高学歴で正規の仕事を持っている相手でした。しかし、この男は、何やら話し合うこともなく、女性は家にいて家事をちゃんとやれというスタンスを押し通してきて、典型的で敢えて言うならあまりにクリシェな感じの「俺は仕事が忙しいんだよ」パターンの夫でした。人生が大きく開けると思われたまともなはずの男との結婚は、単に彼女に息苦しい毎日を齎しただけであったところから、『夫への復讐サイト』の常連投稿者に変貌していくのです。

 映画は終わりに向けて、大した加速感もなく、久本雅美には下着メーカー経営者の道とやがて夫となるであろう恋人をあてがい、板野友美には(東ちずる演じるスナックの海千山千ママの母による結婚維持の説得にもかかわらず)男に依存しない生活の選択肢を用意し、無理矢理感のある展開で、久本雅美が退社した後の職場での派遣OLの仕事をあてがって、大団円へと至ります。

 詰まる所、オモテ社会の鬱憤晴らしや逃避を、正体を隠してSNSの世界で実現しようとしても、ロクなことはなく、必ず破綻してしまうから、ちゃんとオモテ社会に向き合わなくてはならないぞという教訓を呈示する物語と言うことなのだと思います。この映画は、顔バレもし、警察にもお世話になり、会社でも露呈して失意の久本雅美に向かって、「ちゃんと向き合って自分のやり方で戦いましょう」的な主旨で明確に呼びかける人物を用意しています。

 ハロプロ系でデビューに至った仙石みなみと言う、私が聞いたこともないアップアップガールズというアイドルユニットにいたという女優がこの人物を演じています。彼女は久本雅美から常に理不尽な叱咤を受ける立場の入社数年のOLの役どころですが、現実の彼女が就活未経験の感じバリバリであるせいか、私が知る中でこれほどスーツが似合わない新人OL役はあまりいないという状況で、学芸会的イメージが終始拭えていませんでした。

 彼女は久本雅美からの理不尽なパワハラへの反抗もあって、都市開発プロジェクトのクライアントの若手経営者の男性と接待の料亭の廊下で(多分)SNSのお友達になってしまい、彼との距離を縮めて行きます。当然、お決まりの展開でラブホに誘われ、入口にまで行きます。しかし、中から出てきたカップルが明らかに援交か追加サービスまで行ったデリヘル嬢とオッサン客の組み合わせで、これまたクリシェですが、出てきた直ぐの路上で、「あ。そうだった、そうだった」とオッサンが言ってその場でカネを払うのです。それを目の当たりにした彼女は若手社長に「また、今度にさせて下さい」と社交辞令を言って去ります。この時の若手社長の台詞がまた傑作のクリシェで、「仕事の一環だと思ったらいいね」のようなことを言うのです。

 久本雅美の方は顔バレ後、マンション前に詰めかけたマスコミ陣の前で、マンション脇の公園にパンティを置いてくるという開き直りの実践に打って出ますが、誰もそのパンティを争って拾いに来る人間はいません。それを結果的に拾ったのは、この仙石みなみで、拾って見上げたマンションのベランダには久本雅美が居て、そこに向かって、先述の「ちゃんと向き合って自分のやり方で戦いましょう」を叫ぶのです。それは当然、若手社長と寝なかった自分の決意でもあったことでしょう。

 過去大流行でバーチャルな世界の不動産投資熱まで盛り上がった「セカンドライフ」などでも、リアル世界の人格を引きずらないことが、人気の最大の原因だったと思います。FBでさえ、芸名だの商売上の名前などを使ってアカウントを作っている人間は多数いますし、他の匿名性の高いSNSでもウラアカの存在は常識です。それ以前に、『ソーシャルもうええねん』を読むと、『いいね』という商品を作る工場として架空SNSアカウントは膨大に存在していることが分かります。そう言った側面や背景への考慮も何もなく、いきなり、「SNSで日頃の鬱憤晴らすなや」や「真実の自分に向き合って、正直に生きましょう」のメッセージは過剰にシンプル過ぎるように思えます。

 おどろおどろしく盛り上げた割には尻すぼみでしたが、SNSの負の側面を描いた作品で言うなら、『白ゆき姫殺人事件』の方が秀逸だったと思いますし、SNSに踊らされる人々を至近距離からガッツリ描いたという意味では『ディス/コネクト』も評価できます。そう言った掘り込みがほとんど見られず、妙にスカスカなSNS社会の描写に留まったところがこの映画のダサさの最大の理由だと思います。久本雅美の熱演は一応認めますが、表情が乏しく人格を表現しきれない板野友美も、27歳にしてOLが全く似合わない仙石みなみも落ち着いてみていられるレベルでもなく、かなり辛いのでDVDは不要です。