『パシフィック・リム:アップライジング』

 4月中旬の封切からまだ数日の日曜日の夜、12時10分の回をバルト9で観て来ました。バルト9には上映開始の12分前に到着して、ギリギリでチケットを入手しました。ギリギリになった理由は、その直前に見ていた『ブラックパンサー』の錦糸町の上映館が、頭が悪いことに終了時間さえ計算できず、11時14分終了とされていたので、何とかバルト9に間に合うだろうと計算していたら、なんと上映終了は20分過ぎになっていたからです。

 本当に不治の病は存在するものだと思わずにはいられません。錦糸町の映画館の需給バランスの読みがまともであれば、前日のうちに『ブラックパンサー』は観終わっているはずで、元々30分近くの電車移動を含むギリギリの映画館梯子をする必要さえない筈でした。おまけに、入念にも『ブラックパンサー』の上映開始前には、エンドロール後にも映像があると忠告されていて、実際ここ最近のマーベル作品の例に漏れず、2度もティーザー映像が加えられていました。それを律儀に見終わると、20分過ぎの終了と言うことになっていました。

 スマホレスの私は当然電車の検索を路上でしませんが、スマホを持っていてさえ、映画館を飛び出て錦糸町駅に向かう途上でモタモタとスマホで乗換検索を見ている暇はなかったことでしょう。総武線の各駅停車で、タクシー乗場がホームからすぐの四谷駅まで移動し、慌ててタクシーに乗って、低能映画館の計算ミスによる時間ロスを何とか補いました。

『パシフィック・リム』は、日本のSF実写モノやアニメモノへの愛が感じられる作品でした。出て来る怪獣も英会話の中でさえ「カイジュウ」とそのまんまで表現されていますし、ロボットや基地の造形や設定さえ、色々な日本製作品を連想させるものでした。そのような作品の続編にも、同じ期待をしたのが、観に行った理由です。

 終電時間過ぎのシアターに入ると合計で30人ほど、若い男女(半々ぐらい)を中心にカップル客や集団客がいました。上映中のマナーの説明映像で「話をするな」と言っている最中でさえ、ぺちゃくちゃと話をしているガキばかりでしたが、それでもたった一組のカップルを除いては、本編上映中は静まり返っていました。

 その一組のカップルはコミック『愛がゆく』のような知能レベルが数字で額に浮かび出る世界なら、桁レベルでかなり少ない数字かなと言う男女でしたが、理解できないことに、終了10分前の辺りに入って来て、ほとんどスクリーンを見るでもなく、入ってくる前から続いていたであろう話題をそのまま持ち込んで、ぺちゃくちゃと話していました。スクリーン上で怪獣が咆哮を上げ破壊音が響くと会話のボリュームを上げ、エンディングの富士山麓の雪がちらつく場面で静まり返ると小声で話すという、なかなか器用な連中でした。私は彼らに3番目に物理的距離が近い客でしたが、「静かにしろ」と言うべきか否か逡巡しているうちに映画が終了しました。

 映画の方は、端的に見て、前作より魅力が大きく減じたと思えます。主力イェーガーは前回の主力機の後継機と言うことでデザイン的にはほぼ一緒でスリムなフォルムになり、エヴァ初号機を連想するような体型になっていますが、まあ、何だということもありません。

 前作監督(今回も関係していますが監督からは降りています)自慢の怪獣はたった3体しか登場しません。無人イェーガーを量産して怪獣襲来に備えることになっていますが、それらは怪獣の細胞に侵されていて、突如として急成長した怪獣の細胞に操られて味方の攻撃を始めます。白ベースの機体が寄って集って攻撃して来てイェーガーを破壊する様は、エヴァ弐号機が量産型エヴァに襲われ喰われるシーンを連想させます。さらに、通常機体のイェーガーが(膨張して機体からはみ出ることはありませんでしたが)怪獣の細胞に則られて、かなりハイレベルな操縦状態を生み出して襲ってくるシーンもありますが、参号機がバルディエルに則られた様子宛らです。ただ、これまた、「まあ、そうだよね」としか思えず、特段感動を呼びません。それは多分、前回のような怪獣とイェーガーのダイナミックな対決場面がかなり限られてしまっていてベースとなる面白みがそがれてしまっているからではないかと私は思います。

 物語の構成も、大きなどんでん返しがあると言うほどでもありませんし、役者も特に有名な人間が出ている訳でもありません。前作の芦田愛菜のような大賞賛の名脇役もいません。特撮も悪くありませんが、前作を超えるものには見えません。

 前半の色々な伏線もきちんと絡み合ってラストのクライマックスに突き進むスピード感は十分に評価でき、面白くない訳ではないのですが、やはり、あまりに一作目が偉大過ぎたということなのだろうと思います。

 前作の人類対怪獣の戦いはかなりギリギリに人間側が追い詰められており、それゆえの命を張った自己犠牲が光るなどのエピソードもありますが、本作で主要キャラで死ぬのは、かなり早い段階で(まだ怪獣も登場しないうちから)ヘリが墜落して死亡する菊地凛子ぐらいです。

 怪獣3体は東京に上陸し、富士山に登ろうとしますが、イェーガー軍に妨害され、合体して巨大な怪獣1体になります。あっさりすべてのイェーガーを排除します。東京に上陸したのに、その鈍重な見かけと大きく異なり、怪獣は新幹線以上のスピードで移動しているのか、東京での戦いからすぐ後に富士山に登り始めます。パンフにもありますが、日本の怪獣はかなりの確率で、伝統的に東京タワーなどの名所を破壊し富士に上りたがることがあります。その伝統も掬い取って、本作に反映されていることには好感が湧きます。

 現れた3体にも、誰がつけたのか和風の名前が付けられ、ライジンなどの固有名詞が英会話の中にバンバン登場すると、何か目新しい面白さに思えます。しかし、そのような日本人に面映ゆさを感じさせるような設定や演出も、前作を大きく超えるものではありません。

 一事が万事、そのような感じの作品で、DVDは不要かなと思えます。前作の高い評価の輝きの陰に隠れたそこそこの名作としか表現できないように感じられるのです。それでも、エンディングのシーンで少々示唆されているようになっている第三作目が登場したら、劇場で見ると思います。