072 持続的全体主義

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経営コラム SOLID AS FAITH 第72号
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ご愛読ありがとうございます。第72話をお届け致します。

前号の予告をご記憶の方もいらっしゃると存じますが、今回の号はかなり深
刻なテーマに取り組んでみました。不埒・不謹慎のご批判もあるかと思います
が、色々な意味での「終わりの意義」について考えたつもりです。ご感想・ご
意見もお待ちしております。(返事の納期は5営業日!!)

弊社PR欄の方は、打って変って、弊社制作のラジオ番組ができるというご
案内です。ご笑覧下さい。
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その72:持続的全体主義

義母が逝った。私と妻の結婚に非常識なまでに反対した人であった。音信不
通であったので、癌が全身に転移した後に彼女の初孫にあたる生後四ヶ月の娘
を連れて妻が見舞いに行った。病床で初めて見るたった一人の孫。酸素を送り
込むための管。腹水を排出するための管。彼女はベッドに起き上がることもで
きず、脇に置いた孫娘に触れるのが精一杯だったと言う。

昨年の秋に彼女の孫が生まれ、それと前後して、北海道の地で彼女の一人息
子が地元の女性と結婚した。昨年春の結納に横浜から来道して、体調を崩した。
結婚式に再び来道して、更に失調した。そして、海外で出産した娘の報を聞い
て興奮とともに衰弱してゆく。不治の病を既に知って、初孫を眼前にしたらた
だでは済むまい。翌日から衰弱が始まり、腹水には既に癌細胞が混じる。一週
間を待たずに意識を失い、そのまま息を引き取った。幸せの一瞬々々に、命を
切り売りし続けたような一年足らずに見える。私の洞察に驚く妻に私は言った。

「テレビで野生の動物の生態を見たら分かる。生物は個体の保存を意図してい
ない。鮭でも、イカでも、次世代が世にあることを確認すると、古い個体はD
NAの指令なのか、滅んでゆく。衰えた個体を残せば種は弱くなる。種の保存
と言う生物の目的達成のために、古い個体は消えなければならない。生きたい
と思うのはヒトの意思。自然の意志は別な所にあるはずだから、老いて病み衰
えた体で初孫に対面したら何が起きるか、推測はできた」

東京のとある商店街のスーパーが消えた。単店経営のそのスーパーを私は数
年前、恩師小谷喜八郎先生とともに訪れた。高級食材を扱うその店の歴史は古
い。経営者も幹部も高齢になっている。店長の部下にあたる幹部の中に既に店
長経験者が3人もいる。しかし、その店以外に人をもって行く所がない。人件
費は高騰する。若手の社員を雇えず、ピラミッドが崩れる。商店街のど真ん中
で店は広げられない。駐車場も確保できない。有効な差別化を模索する間もな
く、終焉が見え始めていた。

私にとっても中小企業を知る大きなきっかけとなったそのスーパーは、或る
日、訪れたら、もう別の店に変わっていた。当時の私には見る機会の少なかっ
たバックヤードを親切に案内してくれた幹部が呟いていた一言を思い出す。
「私たちは去るタイミングを逃したのかもしれませんね」。あの幹部は今どう
しているのだろうか。衰え行く時、人は全体のために、何にこだわり、いつ何
をすべきなのか。未だ私は正解を知らない。
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「企業から人へのコミュニケーションを考える」
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次号予告: 第73号 人の集う場所(2月10日発行)
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